防災科研の「地震ハザードカルテ」と、国土交通省の「重ねるハザードマップ」をできる限りわかりやすく解説します
自宅のハザードマップはチェックしておくようによく言われますが、自分の会社のハザードマップを調べたことはあるでしょうか?
昨年、千葉県の自治体でセミナーを行ったときに、マイ・タイムラインの会社版をやってみようということで、聴講者の方に向けて自社や調達先、サプライヤー、クライアントなどの拠点のハザードマップをチェックするというワークショップを行いました。
そのときは、多くの方が使ったことがあると思う国土交通省の「重ねるハザードマップ」を用いて水害などをチェックすると同時に、指定した地点の「地震の発生確率」や「地盤が硬いか柔らかい」かがわかる、防災科研(国立研究開発法人防災科学技術研究所 NIED)の「地震ハザードカルテ」を使いました。
この防災コラムでは、多くの方があまり使ったことがないと思われる「地震ハザードカルテ」の使い方や見方を紹介してから、重ねるハザードマップを簡単に紹介していきたいと思います。
以下の地震ハザードカルテの解説は、J-SHISがサポートしているサイトであるユレッジの「地震ハザード、読みこなし隊がいく!」のページをベースにしています。
もくじ
ハザードマップの解説の前に「ハザードマップを使って何を知るか?」というゴールを紹介しておきます。
1)地盤(揺れやすいか・揺れにくいか)
2)地震が発生する可能性(起こりやすいのか?)
3)地震以外の自然災害 (洪水・土砂崩れなど)
の3項目について、根拠となる指標と数値、そして結論を決めることを今回のゴールにしました。
地震ハザードカルテは、入力した住所の場所が「どれくらい揺れるか」「どれくらい地震が発生する確率があるか」を診断してくれるページで、診断結果は表示されるだけでなくて、PDFで出力もできるので便利です。
まずは、
J-SHIS 地震ハザードカルテをクリックしてください。J-SHISとは、Japan Seismic Hazard Information Stationの略のようで、防災科研が調査した地震に関するデータベースのようです。
地震ハザードカルテのページが表示されると、「住所を入力して検索」のあとに地図が表示されて、一番下にある「診断する」ボタンを押すだけです。
PDFで出力すると、A4一枚のサイズにまとまって、知りたい場所の地盤と地震の確率の情報が表示されます。チェックポイントは5点で、次にそれぞれのポイントの見方を説明していきます。
その前に、地震ハザードカルテに登場する「表層地盤」と「深部地盤」について説明します。言葉のイメージどおり表層地盤は地面に近い地盤で、深部地盤は地面から遠い地盤です。
注意ポイントとしては、平野や盆地では、表層地盤は図のように軟弱であることが多く、地震が発生すると、深部地盤で増幅されて、さらに表層地盤で増幅されるから地震が大きくなるという点です。
それに対して山間地では、硬い岩盤が地面から近いから揺れは小さくなるという傾向があるようです。
実は、地震ハザードカルテは、自分の診断結果を眺めているだけでは、専門用語が多く理解できないと思います。しかし、別の地点と比較するとよくわかるようになるので、ここでは弊社がある「東京都台東区蔵前」(左側)と、地盤が良好な地点の例として「北海道紋別郡 滝上町字サクルー原野」(右側)を比較して見ていきます。
総合評価のレーダーチャートを見ると、地盤が良好な「北海道のサクルー原野」はピンク色の面積が小さくて、「東京の蔵前」の方はピンク色の面積が大きいことがわかります。大雑把にはピンク色の面積が小さいと「揺れにくい」ことを表しています。
左上にある「“地盤増幅率”は揺れやすさ」を表していて、左下の「“深部地盤”はどれくらい柔らかいか」を教えてくれます。蔵前はどちらも大きいから「揺れやすくて、柔らかい」地盤で、それに対しサクルー原野は「揺れにくいし、硬い」地盤だということが理解できます。
総合評価以外の項目は、レーダーチャートの各項目の詳細です。次からはそれぞれについて簡単に紹介します。表層地盤で特に知っておいた方がいいのは「地盤増幅率」です。地盤増幅率とは「真下で同じような地震が起こった場合、この値が大きければ大きいほどその地点が揺れやすい」と比較的わかりやすい指標です。
関東、関西、中京エリアの地盤増幅率マップを載せておきました。青色、黄色、オレンジは1.4以下なので「揺れにくい」エリアで、赤が「揺れやすい」エリアで、紫は「特に揺れやすい」エリアです。つまるところ、住みやすい「平野や盆地」「台地」が赤や紫の傾向があるということです。
この表は「L字型のほうがより深いところまで地盤が柔らかい。逆L字型「¬」に近い形だと浅い箇所から硬い地盤である。」ということを教えてくれます。
もう少し見ていくと、横軸のS波の数字が大きいと「硬い地盤」で、たとえば、サクルー原野ではS波=2700m/sのときは161mで、蔵前はS波=2700m/sのときは2343.2mと書かれていて、蔵前の方が「深く掘らないと硬い地盤が出てこない」ことを教えてくれます。
ここは説明に書かれているとおりで「今後30年間にある震度以上の揺れに見舞われる確率の値」です。
サクルー原野は震度6強は0%と書かれています。蔵前の方は震度6弱は58.1%ですが、震度6強は13%と低い確率であることがわかります。
蔵前の震度6強の超過確率のイメージが湧きにくかったので、高知県庁の住所である「高知県高知市丸ノ内1丁目」の震度6強の超過確率を見てみたところ、66.3%でした。震度5弱で比較すると蔵前の方が100%発生するとなっているので、地盤の条件で変わってくると言えるのでしょう。
ハザードカーブの図は、黒い線だけをみて、「L字型に近づけば近づくほどハザードは全体的に低く、逆L字型 「¬」だとハザードが高い(高い頻度で大きな揺れに見舞われる) 」ことで判断します。
サクルー原野はL字になっているのでハザードが低く、蔵前の方は線形を描いているので判断し辛い結果となっています。
ハザードカーブも蔵前では判断し辛い結果になったので、こちらも高知県庁の住所を確認しました。
逆L字型を描いており、ハザードが高い、つまり「高い頻度で大きな揺れに見舞われる」ことがわかります。
このように地域によってデータが異なるため、自分の会社が「揺れやすい場所にあるかどうか」を教えてくれる地震ハザードカルテをチェックすることをおすすめします。単独で評価するより、このコラムの結果を見ながら、比較してチェックすると理解しやすくなると思います。
次は、重ねるハザードマップを見ていきましょう。
各市町村でもハザードマップをチェックできるサイトがありますが、自分の会社やクライアント企業、仕入先、配送会社などの拠点の状況を調べるには全国の状況を知ることができる、国土交通省の「重ねるハザードマップ」から探すのがわかりやすくていいと思います。
サイトにアクセスすると、「住所から探す」の項目に住所を入力して検索ボタンを押すだけで表示してくれます。
入力した住所のハザードマップが表示されると、可能性の高い自然災害を最初に表示します。蔵前では「洪水」となり、サクルー原野は「災害がないかデータが未整備」なので、真っ白になっています。
最初に表示される吹き出しに該当地域のハザードマップへのリンクがあるので、詳細はクリックして確認するようにしてください。
吹き出しには、注意点が書かれています。弊社の場合には、「3m〜5mの浸水が発生することが想定される」と書かれていることから、夏から秋にかけての台風シーズンには注意が必要となります。
BCPでは、事前にこのような内容を把握している場合は、台風の情報を注視し、従業員の自宅待機などをルールに基づいて指示を出すようにします。
重ねるハザードマップには、近くの避難所を教えてくれる機能があります。
図のように、左側の「すべての情報から選択」を押して表示される「情報リスト」から「指定緊急避難所」をクリックすると地図に表示されます。旗が立っている場所が会社の場所で、近くの避難所のアイコンを押すと詳細がでてきます。
例では雷門の近くの「田原小学校」を押しましたが、「備考」に注意してください。洪水のときはいつでも避難所になるわけではなく、「荒川が氾濫するおそれがある場合は、開設しない」と書かれています。このように避難所には開設条件があるので、避難所があるから安心というのではなく、事前に調べておかないとBCPのストーリーが崩れてしまう可能性があるため注意ください。
あまり気づかれていないと思うのですが、個人的には「重ねるハザードマップ」の便利な機能として、画面の左下に地図の中心地点の標高が表示される点です。東京の江戸エリアで活動をしていると、ゼロメートル地帯が多いことから、標高の情報が分かると安心感に繋がります。
「地震ハザードカルテ」と、「重ねるハザードマップ」の2つを使って、ハザードマップからの結論を表にしました。
弊社の立地場所は「揺れやすい地盤」にあり、「震度6強の地震の確率は低いがゼロではない」こと、洪水が発生した場合は「最大5m浸水する」という結論となりました。
この内容を認識すべき事項ということで、企業としてのBCPを進める上でのエビデンスとして社内で共有することとします。
ハザードマップには様々な情報を得ることができますが、まず最初は複雑にならないように、シンプルに「地盤」「地震の可能性」「地震以外の自然災害」の3つの情報について、社員で認識すべき事項として共有することが大切だと思います。
これを書いている本日は、まだ南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発令中ですが、各自治体などは、この機会に防災備蓄の確認等を行うように通達しています。自分が勤めている会社や取引先の場所などを調べることでBCPでの計画にも取り込めるようになるので、ぜひ情報整理という意味合いでも時間もかからないので、会社のステークホルダーの所在地のハザードを調べておいて記録を残しておくことを推奨します。
もちろんですが、今回紹介した内容は個人宅でも当てはめるので、ハザードマップはチェックしたことがあるけど、地震ハザードカルテは診断したことのない方は調べてみてください。(鳥居)
弊社では、災害発生時に向けた備えとして、「初動対応の資材」と「3日間対応の備蓄」という2つの考えに基づいた防災備蓄品を提供しています。備蓄品もハザードマップの状況により必要なものとそうでないものがあり、会社内の防災備蓄について困った場合はご相談ください。
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